南米のチリとアルゼンチンの南部地域(南緯40度以南)を指します。国境線上を南北に長く連なるアンデス山脈がパタゴニアにいろいろな環境を作りだしています。アンデス山脈上は広大な氷床(山全体が氷で覆われている)となっていて、そこから流れでる氷河は、西側の海岸線を削り悠久の時を経て美しいフィヨルド地形が作られました。東側は豊かな水を得て、ナンキョクブナの森が広がる湿潤で動植物の豊かな森林地帯ですが、その先は大西洋に至るまで、乾燥した平坦で広大なパンパ(荒野)となっています。
 またパタゴニアは、偏西風の影響と氷床からの冷たく重たい風が東側に流れ落ちるため、いつも強い風が吹いており、風の国と形容されるゆえんとなっています。
 パタゴニアという名前は、かつてマゼラン海峡を発見した航海者マゼランが、現地の先住民の足が大きいことに非常に驚き、パタゴン(大足族)と名付けたのが由来らしいと言われています。
 
 鳥や動物、山や森や雪が好きでした。
 この旅の1年半前に出かけた青森・秋田の白神山地の春を待つブナの森。悪天候で停滞中のテントの中で、ふと話題にのぼったのがパタゴニアでした。駆け足のツアーではなく、自分達で計画して、パタゴニアの自然にじっくりひたる旅。それだけでも十分魅力的でしたが、日本の裏側、日本から最も遠い所という点にとても惹かれました。しかも日本にはブナの原生林があるけれど、パタゴニアにはナンキョクブナの森が広がっているらしい。日本には絶対無い自然、でもどこかで日本とつながっているような不思議。またパタゴニアには、アジアからベーリング海峡を渡り北米大陸を南下していった、日本人と同じモンゴロイドがいるらしい。北米大陸のネイティブは広く知られていますが、パタゴニアのネイティブはどんな人たちなんだろう。様々な興味が交錯しました。遠い遠いパタゴニア。行って自分達の目で確かめるしかない、と思い至り、旅の準備をはじめました。
 
 この旅行は、パタゴニア地方にいくつもある国立公園を訪ねることを主目的に計画しました。パイネやロスグラシアレス(氷河)等の国立公園は町から離れていますが、日本で見たガイドブックによると、一般的には現地のツアーを利用するので、公共の交通機関は無さそうでした。そこで、機動性と携行に優れた自転車を分解して持って行くことにしました。ただ、自転車はあくまでも移動の一手段であって、自転車で全て移動することが目的ではありません。旅行には時間的な制約もありましたので、長い移動は、飛行機、バス、船、タクシーなど何でも使い、国立公園への移動や面白そうなルートは自転車を広げて、パタゴニアお手軽ツーリングを楽しみました。自転車で走った合計距離は約1,000kmです。
 自転車の旅というと、Pokoは高校時代からツーリング自転車を愛用し、北海道や中部山岳地帯をまわった経験がありました(が、海外旅行はこれが初めてです)。Pekoは中学以降、ほとんど自転車に乗っていませんでしたが、この旅のためにマウンテンバイクを購入。トレーニングのための遠出を二度ほど経験して、この旅に備えました。
 
 「今は昔」の1989年11月から1990年3月までの約4ヶ月
 
Poko♂ 1965年生まれ
 登山好きな父に連れられ幼少より山に親しむ。学生時代は山岳部で冬山、岩登り、沢登り等、活動を広げる。卒業後の冬にパタゴニアへ。帰国後、学生時代からバイトしていた気象調査解析の会社に就職し、山や雪や氷などの自然現象を相手にした仕事をする。2003年に十数年勤めた会社を辞め、家具や木工品などを作る事を生業にするべく高等技術専門校で木工を修得。2004年、木工房「ヒロクラフト」開設。2005年4月に栃木県那珂川町(旧馬頭町)に家族で移住。
 
Peko♀ 1965年生まれ
 動物好きの爺にめぐまれ幼少より鳥や動物に親しむ。田舎育ちだが上京後は動物や植物等の自然環境に関する勉強をしつつ関東地方の豊かな自然に接する。後、気象調査解析の会社に就職し、山や雪や氷などの自然現象を相手にした仕事をする。パタゴニアへ行く為に5ヶ月間休職。その後、出産を機に退職し三児を自宅で出産。那珂川町に移住後は、ヒロクラフトを共同で運営しながら、里山の生活を満喫中。(日々の里山生活をブログで綴っています。ブログ「野山で遊ぼっ」
 
 アジアを離れたモンゴロイドがパタゴニアに到達してから約1万年。パタゴニアの雄大な自然は今も昔もほとんど変わっていないように思えますが、温暖化等の影響か、この数十年で広大な氷河も少なからず変化していると聞きます。
 旅を終えた当時はインターネットも無く、撮影した写真は身近な人に見てもらう程度でしたが、インターネットの発達・普及によって、これらの写真をさらに多くの方々に見てもらえるようになったと思いこのHPを作りました。インターネットの利点の一つとして、地球の自然や文化等の情報を蓄積、保管、利用するアーカイブとしての機能があると思います。最近のパタゴニアを紹介した沢山のホームページを見るにつけ、10数年前の写真でもパタゴニアの自然の変化を把握する上で十分意味があると思い、押入れの箱の中で埋もれていたフィルムに、もう一度光を当てインターネットの海に流すことにしました。
 
 また、私達にとってこの旅は、それまでの知恵と経験を総動員した大きな冒険でもありました。「海外は初めて」のPoko、「自転車に不慣れ」なPekoの二人が、自転車やキャンプ道具を携えて、日本ではあまり知られていない場所で4ヶ月の旅をする。出発前には出来るだけの準備をしたつもりでも、やはり不安は沢山ありましたし、家族にも沢山の心配をかけました。でも、パタゴニアの地に立った瞬間から現地の人々の暖かさに助けられ、また雄大な自然につつまれて、ほとんど不安を感じないまま、無事に楽しく旅を終えることができました。
 すでにパタゴニアを旅した方、これから旅立とうとしている方、いつかはと憧れている方、パタゴニアの名前すら知らない方にもこのHPを御覧いただき、私達のパタゴニア珍道中を一緒に楽しんでいただければうれしいです。
 
 この旅を始めるにあたって、当時、沢山の方々に助けていただきました。旅行後、全ての方にお礼をすることが出来ませんでしたので、この場を借りて、感謝の意を表したいと思います。また、現地でお世話になった方々の中には、すでに他界された方もおられますが、同時に沢山の感謝の気持ちを送りたいです。                                                                 
2004.08